大規模開発ほど問われる、チームに最適化したバックエンドアーキテクチャ選定
2026.11.6
こんにちは。バックエンドチームでAPIの設計・実装を担当している岩口です。
突然ですが、皆さんは開発の中で「この処理はどこに書けばいいんだろう?」「コードの依存関係が入り組んでいて解読できない」と頭を悩ませた経験はありませんか?
依存方向やフォルダ構成が未定義のまま開発を進めると、モジュール同士が直接参照することで、複雑な依存関係となりコードはあっという間にスパゲティーコード化してしまいます。コードは自分一人で書き続けるものではなく、「自分以外のメンバーが編集する時間」のほうが圧倒的に長いものです。
そのため特に複数人が関わる大規模な開発では、チーム全員が同じ方向を向いて開発を進めるための「共通言語」や「指針」が欠かせません。
そこで重要になるのが「アーキテクチャ」です。
適切なアーキテクチャを定義し、しっかりと運用することで、コードの品質と開発効率を高く保つことができます。
今回は、なぜアーキテクチャがそれほど重要なのか、そして私たちが実際にどのように取り組んだのかについてお話しします。
✅ この記事でわかること
- アーキテクチャ選定に「絶対の正解」がない理由
- プロダクトとチームの現実を踏まえた、技術選定の判断軸
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岩口 恭大 Iwaguchi Yasuhiro
バックエンドエンジニア
ElixirやPHPを用いたバックエンド開発を中心に、SaaS開発ではシステム全体の構成設計からAWSによるインフラまで幅広く担う。フロントエンドの経験を活かし、画面側まで見通した実装を得意とする。自ら考え動き、プロジェクトを前に進めることを大事にしている。
趣味は学生時代から続けている和太鼓。
もくじ
アーキテクチャ選定に、なぜ「絶対の正解」がないのか
プロダクトにおいて「品質」は最も重要です。品質が高ければユーザーの信頼を獲得でき、サービスを長く使ってもらえます。
ソフトウェアの品質は、国際規格(ISO/IEC 25010)に準拠した日本産業規格(JIS X 25010*)で定義されており、機能適合性や信頼性、そして「保守性」などの特性が存在します。
どれほど優れた機能でも、コードが複雑化して保守性が低い状態になれば、品質は低下していきます。この品質の土台を支える骨組みこそが「アーキテクチャ」です。
アーキテクチャ選定において最も難しいのは、「どのアーキテクチャを採用するか」という意思決定です。なぜなら、あらゆる課題を解決する万能な「銀の弾丸(絶対の正解)」は存在しないからです。
すべての選択肢にはメリットとデメリットがあり、常にトレードオフの関係にあります。たとえば、保守性や堅牢性を高めるために厳格なアーキテクチャを採用すると、構造が複雑になり初期の開発スピードが落ちることもあります。
技術選定を左右する、3つの判断軸
最適な答えを導き出すためには、技術単体で判断するのではなく、次のようなコンテキストを加味することが欠かせません。
プロダクトの現状とチームの現実を客観的に把握し、トレードオフを受け入れた上で「自分たちにとっての最適解」を選択することこそが、アーキテクチャ選定の本質と言えます。
チームの実情から導くアーキテクチャの選択と実践
私がバックエンドのアーキテクチャ設計をゼロから主導したプロジェクトにおいて、どのようにトレードオフを検討し、選択したのかをご紹介します。
この選定にあたっては、「過去の苦い開発体験」と「チームの現実的なスキルセット」という2つの背景がありました。
かつて携わったプロジェクトでは、レイヤー同士の依存関係が乱れており、1つのファイル内にビジネスロジック(ドメイン)、HTTPの入出力処理、DBの更新処理がすべて詰め込まれていました。結果としてコードの修正が非常に困難になり、「どの処理がどこに存在するのか」を把握するだけで膨大な時間を奪われる状態に陥っていたのです。
この教訓から構造の整理は不可欠だと感じていましたが、定番の「オニオンアーキテクチャ*」などの採用は見送りました。その理由は、堅牢な一方で抽象化が進み、ファイル数も増えると予想されたことです。当時のチームの習熟度では「どこに何を書くべきか」で迷いが生じ、開発スピードが落ちるリスクがありました。
そこで今回は、最も学習コストが低く直感的に理解しやすい「レイヤードアーキテクチャ*」を選択しました。依存関係の方向(上位から下位への一方向)をルールとして厳守し、過度な抽象化はあえて避けるアプローチです。
将来的な拡張の柔軟性を一定トレードオフとして受け入れる代わりに、現在のチームにとって最も迷いのない開発基盤を優先しました。責務の境界線を明確にしたことで、機能追加時に迷うことがなくなり、修正の影響範囲も限定されました。結果として開発スピードを殺さずに、高いコード品質を維持し続けるという成果を得ることができました。
ドメイン(ビジネスロジック)を中心に据え、外側の層(DB・API等)がそれに依存する形で設計する手法。層構造を厳密に守ることで、外部技術の変更に強い設計になる一方、層の数が増えやすい
まとめ
チームのコンテキストに合わせたアーキテクチャを適切に定義することは、プロダクトの品質を保ち、チーム全体の開発スピードを高めるための強力な土台となります。
しかし、アーキテクチャは「一度設計して終わり」ではありません。どれほど優れた構造を定義しても、運用の中でその思想や知見をチーム全体に継承し続けなければ、あっという間に形骸化してしまいます。今回のプロジェクトでも、設計の意図や背景をメンバーへ丁寧に共有・伝達したことで設計ルールが守られ、コード全体の統一感を保てたのだと身をもって実感しました。
これから先、生成AIが自動でコードを書き上げてくれる時代がより本格化していきます。しかし、どれだけAIが高速にコードを生成したとしても、システム全体の統一感を保ち、変化に強い柔軟な構造を維持する責任は人間に残ります。コード生成が容易になる時代だからこそ、全体を統括する「アーキテクチャ」の存在価値は、これまで以上に高まっていくと考えています。
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