正解のないVR体験を、3社でつくる──Unityで挑んだ共創UX開発のリアル
2026.3.3
もくじ
リアルとバーチャルをつなぐ新しいオフィスのかたち
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まず、本プロジェクトの概要について教えてください。
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宮嵜
ひと言でいうと、リアルとバーチャルを融合させたVRを活用した会議システムの研究開発です。
働き方の多様化が進む中で、出社とリモートが混在し、メンバー同士の存在感が薄れつつあります。VR空間ツールは増えているものの、その多くは「会議の代替」にとどまり、ふとしたコミュニケーションを生むところまではまだ至っていません。
こうした背景のもと、コクヨさんのオフィス空間づくりの知見と、コンセントさんのサービスデザインの知見を掛け合わせ、2020年に本プロジェクトが立ち上がりました。
バーチャルオフィスの事業化を見据えたもので、「実空間と連動した常設バーチャル空間」「滞在状況や行動がひと目でわかる、アバターによる可視化」「インテリアや座席の配置を自由に設計できる柔軟性」の3点を軸に進めています。
当初は2社体制で取り組んでいましたが、途中で「3D空間の開発に長けたエンジニアの力を借りたい」とコンセントさんからご相談いただき、2022年にPIVOTがプロジェクトに加わりました。
私たちが参画した理由は、大きく2つあります。
1つ目は、最先端のVR開発に携われる点です。オンライン会議が一方通行になりがちな中、VR会議ではよりリアルなコミュニケーションが生まれる可能性があると、以前から感じていました。そうした領域の開発に関われること自体が、本当に魅力的でした。
2つ目は、共創プロジェクトである点です。受発注の形だと、どうしてもさまざまな制約があり、できることに限りが出てきます。一方で、研究開発という位置づけであれば、そうした枠に縛られず、より自由に面白い挑戦ができると感じました。
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開発にはUnityを使っているそうですが、最終的にUnityを選んだ決め手は、どこにありましたか?
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ミンチー
私たちが参画した当時は、メタバースプラットフォーム「Spatial」で開発が進められており、VR空間もある程度形になっていました。ただ、事業化を見据えるとセキュリティ面に課題があり、会議用途には適さないと判断され、独自のプラットフォームが必要な状況でした。
そこで、オープンソースで自由にカスタマイズできるVR会議プラットフォーム「Hubs」を採用しました。開発は順調に進んでいましたが、2024年にMozillaからサポート終了が発表され、別のプラットフォームを検討することになりました。
さまざまなリサーチを重ねた結果、最終的にUnityを採用しました。Unityは、既存のモジュールを組み合わせて効率的に開発できる点に加え、AR/VR分野の開発環境として世界トップクラスのシェアを誇るプラットフォームであるため、参考となる技術記事が豊富に存在する点も大きな魅力でした。
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宮嵜
PIVOTはUnity専門会社ではないですが、WEB・インフラ・リアルタイム通信を横断できるエンジニアリング体制があり、今回のような実験的プロジェクトとの相性が良かった点も大きかったと思います。
Unityで描くVR体験開発の舞台裏 ──“存在感”を実装するために考えたこと
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Unityを使ってみて、最初にどのような印象を持ちましたか?
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ミン
明るさや影が自然で、描画のクオリティは「Hubs」よりも高いと感じました。
Hubsではやや作り物っぽさを感じていたのですが、Unityに切り替えたことで、よりリアルな表現ができるようになったと思います。
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直面した課題を教えてください。
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ミン
Unityへの移行が決まった段階では、技術面でのフィジビリティチェックを十分に行えていませんでした。そのため、実際に開発を進めてみると、さまざまな課題が見えてきたのです。
例えば、VR空間でリアルタイムの体験を実現するには、ネットワーク速度ひとつにしても細かい配慮が必要でした。加えて、参考になる資料もあまり見つからず、技術スタック(Tech Stack)の選定も試行錯誤しながら、手探りで進めていったという感覚です。
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VR空間でリアリティを出すためにどんな点が大変でしたか?
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ミンチー
歩き方や座り方、表情、仕草といった、人間らしい動きをアバターで表現するのに苦労しました。こうした要素がないと、どうしてもアバターがマネキンのように見えてしまうんです。
その一方で、ホワイトボードの設置といった会議体験を想定した機能についても検討が必要でした。限られた時間の中で、人間らしさと機能性のバランスをどう取るかが難しく、常に「何を優先すべきか」をメンバーと話し合いながら進めていました。
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「存在感」や「距離感」を表現するため、どのような仕組みや演出を取り入れましたか?
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ミンチー
存在感を高める工夫として、アバターの顔部分に実際の人物写真を当て込むとともに、発言中のアバターの周囲が光る機能を実装しました。
この光の演出は、参加者が多い場面でも誰が話しているのかを一目で分かるようにするため、ゲームに登場する魔法陣のようなイメージを採用しています。
さらに、距離感を感じられるよう音声の聞こえ方にも工夫を施し、近くにいるアバターの声は大きく、離れるほど小さくなるなど、距離に応じて音量が変化する仕組みを入れました。
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UXデザインで意識したことを教えてください。
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ミンチー
画面上部に配置するボタンは、大きさや位置を調整し、空間全体の邪魔にならないよう意識しました。
ただ、現状では設定変更にやや手間がかかるため、将来的にはキーボードのワンタップで画面共有できるなど、操作をできるだけシンプルにしていきたいと考えています。
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吉田
操作感の面では、アバターの動きが不自然にならないよう工夫していました。その一環として、ただ歩くだけでなく椅子に座るモーションを取り入れています。
当初は想定していなかった機能ですが、多くのVRを活用した会議システムで使われていることから追加しました。
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技術的な制約から表現や仕様を見直したことはありましたか?
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ミンチー
当初はVRゴーグル向けのネイティブアプリを目指していましたが、将来的な企業利用を見据えて、途中からゴーグル不要のブラウザ版に方向転換しました。
ただ、ブラウザ版は描画や動作速度の面でネイティブアプリより制約が多く、描画負荷が高くなるとFPSが下がりやすいというデメリットがあります。
そのため、ポリゴン数を10万以下に抑えて表現を軽量化するなど、随所でトレードオフを意識しながら進めることが多かったです。
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ベトナム出身であることが強みとして活かされた点や、言語面で難しさを感じた場面はありましたか。
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ミンチー
Mirror Networkingの技術面で行き詰まり、ネット検索しても情報が見つからず困っていたとき、たまたまベトナム語の記事を見つけ、それに助けられたことがあります。詳しく解説されていて、開発を進めるうえで大きなヒントになりました。
私はブリッジSEとして多くのシステム開発に携わってきましたが、VRは今回が初めてで、知らない用語が多く、当初はかなり戸惑いました。
テキストでのやり取りであれば調べながら理解できたのですが、オンライン会議では説明をその場で把握しきれないことも多く、かなり苦戦した記憶があります。
技術とデザインが交わる、共創チーム
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デザインチームと開発チームはどのように連携していましたか?
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吉田
コンセントさんがUX/UI全体の設計、コクヨさんが空間デザイン、PIVOTがUX開発を担当する形で、それぞれの専門性を活かしながらプロジェクトを進めていました。
機能実装に関する要望が多かったため、必要最低限、使いやすいレイアウトを意識しつつ、機能要件を先行検討・実装しデザインは後続実装の形を取りました。
現在は、空間を設計する段階でコクヨさん側のデザイナーの方にもご参加いただき、魅力的で洗練された空間デザインを行っていただいています。
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3社共創という形で開発したことの印象は?
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吉田
フラットな関係性で進めているからこそ、自由に意見を出し合える点が大きいと思います。クライアントワークでは、お客様の要望をすべて形にすることが前提になるため、「その機能は本当に必要でしょうか?」といった意見は少し伝えづらいことがあります。
その点、今回は「巷のサービスを踏まえると、こちらの機能の優先度がより高いのでは」といった意見も、遠慮なく伝えられる雰囲気がありました。こうした部分に、共創ならではの特徴を感じています。
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今回の開発チームを一言で表すと、どのようなチームだと思いますか?
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吉田
言い表すならば「WEB XR Fusion Lab」でしょうか。
WEB技術を軸に、ブラウザベースで現実と仮想をつなぐXR寄りのプロジェクトでした。さらに、研究開発という位置づけも踏まえると、この表現が今回のVR開発の感覚に近いと感じています。
プロジェクトから得た手応えと課題
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今回の開発を通して得られた成果や、今後目指していきたい方向性について教えてください。
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吉田
会議に活用できる多彩な機能を実装したことで、楽しみながら使ってもらえるのではないかと期待しています。
また、基本的にどのOSやデバイスでも動作する点も大きな強みです。ネイティブアプリの場合はゴーグルが必須で、利用できる人が限られますが、今回はプラットフォームに依存しないため、伸びしろが大きいと考えています。
一方で課題については、実際にリリースした後、ユーザーの反応の中に多く見えてくるのではないかと感じています。
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ミンチー
リモートワーカーが増える中、サイトを開くだけで「会社にいる」ような感覚を味わえる体験には、大きな可能性を感じています。よりリアルな体験にするため、今後も試行錯誤を重ねていきたいです。
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共創という形で進めたことについて、率直な印象を教えてください。
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宮嵜
3社がフラットな関係で進められることで多くのメリットはありましたが、一方で「落としどころを見つける」という点には少し難しさも感じました。
一般的な受発注であれば、基本的にはクライアントの要望に応えれば完結しますが、今回は立場が同じだからこそ、最終的な着地点を見つけるのに苦労したという印象です。
そもそもシステム開発に正解はありませんが、今回のプロジェクトは特にその傾向が強く、「みんなで一緒に考える」こと自体に、ポジティブな大変さがありましたね。
PIVOTが目指す、UXを実装するチーム像
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今回の開発を通して、理想的なチームのあり方についてどのように感じましたか?
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宮嵜
やはり、デザイナーとエンジニアが互いの専門領域を理解しながら進められるチームが理想だと感じます。
特に今回のように、まだ世の中にないものを開発する場合は、どんなに良いアイデアがあっても、実現できなければ“絵に描いた餅”になってしまいます。
だからこそ、立場の違いを越えて同じ感覚を共有し、自由に意見やアイデアを出し合える、そういうチームで進められるかどうかが、結局いちばん大事だと思っています。
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ありがとうございました。
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